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Channel: ハーちゃんの「ゆらゆら日記」
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木内昇著 「笑い三年、泣き三月。」

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木内さんは時代小説が得意と思っていたのですが、これは終戦後の昭和21年11月から話しが始まりました。

漫才師である岡部善蔵は、身動きもとれない列車からやっとのことで降り、上野駅の駅舎を出て「あれっ」と思います。自分が持っている昭和16年の上野の写真には自動車やバスが行き交い、飲食店や理髪店、モダンなビルヂングがたくさん建っているというのに、目の前にあるのは粗末な小屋や露店ばかり。

もしや降りる駅を間違えたのか、とも思うのですが、人はやたらに多い。

実は岡部善蔵は、それまで所属していた一座から夜逃げ同然に抜け出して東京に出てきたところだったのです。

漫才と言っても、万歳芸人。流しで家々をまわり生計を立てて30年。本人としては相当な自信を持って一旗揚げようと意気込んで上京してきたのですが...。

戸惑う岡部の前に現れたのは「おしろいを塗りたくった男の子」でした。「おしろい」はDDTを頭から吹きかけられたもの(^^;)。

男の子の名前は田川武雄。家族を空襲で失った戦争孤児。いつも敬語を使い、めったに笑わない。他人に心を開かない子。

岡部と武雄、その後出てくる光秀(復員兵)は、ひょんなことから浅草六区のはずれにある「ミリオン座」という実演小屋にやとわれることになります。そこはこれからオープンする小屋で、なんと「エロ」を表に出して公演すると言う!

踊り子のショウとショウの間をつなぐのが岡部の漫才、というわけです。

戦後の浅草の小屋事情、人々の暮し、3人とオーナー、踊り子たちとの交流が昭和25年まで語られます。

この時代の暮しについて、ほとんど知りませんでした。この小説はそのへんを詳しく書いてあります。

たとえば食料調達です。常磐線に乗って江戸川を越えて2駅目で降り、農家をたずねて「野菜を売ってくれ」と言っても、農家側は高飛車に出る。町の人間は弱いものですねぇ。売ってくれなければ新鮮な野菜は手に入らないんですから。

ひごろ口にできるのは「ふすま団子」「雑草雑炊」。

銀シャリに卵かけご飯が出た時のみなの喜びようと言ったら!

踊り子は「卵じゃないの!」と奇声をあげ抱き合って喜ぶ。

武雄にいたっては「こんな夢のようなことが本当に現実になるのだろうか。夢が叶っていいものなんだろうか」とまで思うんですねぇ。

岡部は武雄を「ぼっちゃん」と呼び大事に扱いますが、物語のエンディングでは二人は別々の道に分かれて行きます。ここは泣けました。

全体的に会話が多く、特に岡部の優しげな九州弁が印象的な小説でした。

続編が待たれますが、出ないでしょうねぇ。


タイトルの「笑い三年、泣き三月。」ですが、「義太夫節の稽古では、笑い方のほうが泣き方よりずっと難しい」ということだそうです。

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