私は「さとなお」さんはまったく存じ上げず、本を読んで「あ、会社員で別の仕事もなさっているのかぁ」とわかった次第。
この本は、「さとなお」さんの個人サイト「www.さとなお.com」の中の1コーナー「不定期日記 雑談な日常」で書かれたエッセイ風味の日記の一部と、書き下ろしのエッセイで構成されています。
天才写真家のアラーキーこと「荒木経惟」さんが、「インターネットって俺ぜんぜんわかんないんだけどさ、自分の日記を公開する奴が増えているんだって? みんなやっと気づいてきたんじゃないかな。一番大切なもの、面白いことは日常の中にあるんだってことにさ」とおっしゃったそうです。
それに激しく同意させられた著者は、1995年ごろ、インターネットで個人サイトを始めました。まだブログで自分の日常を残す作業をする人も少なかったころです。
普通につける日記だと三日坊主になりがちだけど、メールなどで反応があるのなら続けられそう、日常も残しておける。
ただ、この本には日常だけでなく非日常もはさんであります。
さて「さとなお」さんの日常とはどういうものか。
第1章で読者にドーンと衝撃を与えるのが、東京から大阪勤務になった時の著者のカルチャーショックです。「会話の中に笑いを混ぜるなんてレベルではなく、笑いの中に会話を混ぜるんだ」と少したってから気づいたりもする。
14年間の大阪での暮しにどっぷり浸かっていた著者はあ15年目にして東京に帰還するのですが、そこで東京の職場の雰囲気に唖然とするんですねぇ。「無関心」「昼メシを食べに出ない」などなど。
このあたり、すごい勢いで文章が進み、読むこちらも「おお!」なんて声が出そうなくらいの迫力です。
それから「阪神・淡路大震災」に遭った時、著者の奥さんは妊娠9ヶ月の身重だったそうですが、著者の文章を読むと、私たちがイメージしている大震災とはまた違う側面が見えてきました。
著者の住んでいた夙川は、一番揺れた地域だったそうで、マンション自体は無事だったものの、室内はグジャグジャ。外に出たらまだ真っ暗でガスの匂いが強烈にしている。目の前を走っていたバイクがドーンと音を立てて地割れに落ちる。
意外だったのは、「母たちが心配だ」という奥さんの言葉に、著者がクルマで山の上のほうに住む義母たちを訪ねて行った、というところでした。クルマで移動が可能だったのか...。
そのほか、なにしろ水洗トイレが使えないのが致命的だったそうで、地震が起きたらまず水の確保を、と書いているんですねぇ。
文章の続き具合、漢字とカナの混ざり具合がほどよく、読みやすかったです。
角川文庫のフォントは好きなんですけど、私の理想から言うと、もう少し太めが好きかな?