アジアの旅が多かったのかな、と思っていましたが、この本はバルカン諸国と南コーカサスを旅した紀行文です。
バルカン諸国の中でも今回著者がおとずれたのは旧ユーゴである「クロアチア」「ボスニア・ヘルツェゴビナ」「モンテネグロ」「マケドニア」「セルビア」の各国、それと旧ユーゴではありませんが「アルバニア」もついでに回っています。
5週間の旅で著者が感じたことの1つは「クロアチアと他の国々との格差」ということ。
たしかに私も「クロアチア」を観光地として知っているくらいですからねぇ。
第2章は「ルーマニア田舎紀行」で、ルーマニアもバルカン諸国の1つだそうですね。
著者が「木造教会」を見に行った「マラムレシュ」地方は、編み物の雑誌「毛糸だま」で読んだことがありました。人々の独特な服装や羊との深い結びつきが印象的でした。
第3章では、南コーカサス3国「アゼルバイジャン」「アルメニア」「グルジア」を1ヶ月かけて回ります。
この中で「アルメニア」は、ウィリアム・サロイヤンという作家で知った国名でした。
サロイヤンの祖父母の時代にアメリカに移民として渡ってきた一家のようですが、なぜ移民してきたのか、アルメニアはどこにあるのか、興味はあったのに調べようとしませんでした。
この本の注釈によると、19世紀からオスマン帝国によるアルメニア人弾圧、その後の大虐殺事件があり、多くのアルメニア人が殺されたり移民を余儀なくされたりしたそうです。
著者がアルメニアの洞窟住居跡を見物に行った時も、これからアメリカに移民に行く家族のための壮行パーティが行われていたそうです。現在でもアルメニア人のアメリカ移民は珍しくないとのこと。
それから「グルジア」の首都、トビリシの項で「六世紀にムツヘタから遷都されて以来」という文があり「あ、これか!」と謎が解けた思いがしました。
と言うのは、私の愛読書の1つである、武田百合子著「犬が星見た」↓のトビリシでの日記にこういう文章があったから。
今日は遠くへ行きますーにこにこしてガイドは言う。ムッへダ、ムッへダ、ムッヘッダ、ガイドの言葉にくり返し出てくるから、たぶん、ムッへダというところへ行くのだろう。
武田さんは最後までここが昔の都であったことには気づかなかったようです(^^;)。
すぐその後の文章にも面白い記述が。
ガイドさんがジョージア、ジョージアとしきりに言うので「ジョージアという人がこの町にいたの?」とご主人の武田泰淳さんに訊いた百合子さん。泰淳さんから「グルジアは英語だとジョージアだ」と返されています。
蔵前さんもこの本でこう書いています。
そのとき、バザールのそばの旅行代理店で、見慣れない文字で書かれたチラシが張ってあるのを見た。これはどこの文字なのか。旅行代理店の人に聞くと、ジョージアだという。ジョージア? ジョージアといえばアメリカ合衆国のジョージア州しか知らなかった僕は、それがグルジアの英語名であることを初めて知ったのだ。
これは今回の話ではなく、以前にトルコを訪れた時のことだそう。
読書の楽しみはこういう風に、ある本を読んでいると別の本との意外なつながりが見つかる、そういうところにもありますね(^^)。