杏さんは十代のころから文楽に親しんでいてるそうで、この本を 「青春文楽小説」 と言って紹介していましたが、感想などはなにも。
主人公 「健(たける)」 は、文楽に打ち込む若い大夫。大夫とは、義太夫を語る技芸員のことです。
文楽は、人形の遣い手3人、大夫、三味線で一組だそうで、大夫と三味線の関係は、「健」 の師匠である人間国宝の 「銀大夫」 に言わせると 「夫婦のようなもの」 だそう。
最初の文がこういう風に始まります。
「おまはん、六月から兎一郎と組みぃ」
これは 「健」 に対して師匠の銀大夫がはなった言葉。
ところが、義太夫三味線、鷺澤兎一郎の評判は、「実力があるが変人」 というものでした。
困惑する 「健」。そして兎一郎も銀大夫に 「お断りします」 と毅然として言うわけです。
高校時代、勉強は得意ではなく、遊びのほうに熱心だった「健」、修学旅行先の大阪で強制的に文楽鑑賞をさせられます。そして幕が開く前から熟睡...。
心地よい眠りに身をゆだねていた 「健」 ですが、突然だれかに石をぶつけられたように感じて目を開けます。周りを見てもみな静かに文楽を鑑賞しています。
舞台を見ると人形たちが乱闘を繰り広げている。視線を右に移すと時代劇そのものの格好をした男が二人、座っている。一人は三味線をかき鳴らし、もう一人はなにやら熱心に語っています。
「健」 は、石を投げた張本人がその語りの男であることを知ると、老人にメンチを切ります。負けてなるものか、と。相手も 「健」 を威嚇するようににらみ返したまま語り続けます。
もちろん石は投げられてはいないのですが、老人の気迫が 「健」 の体にびしびしとぶつかっていたわけです。
それから文楽に関心を持ち始めた 「健」 は高校卒業を目の前にして、「文楽の研修所に入る」 と親に宣言します。
今の師匠 「銀大夫」 が、その時、「健」 に石をぶつけたその人でした!
章ごとのタイトルが文楽の演目になっています。
幕開き三番叟
女殺油地獄
日高川入相花王
ひらかな盛衰記
本朝廿四孝
心中天の網島
妹背山婦女庭訓
仮名手本忠臣蔵
さて、「健」 と 「兎一郎」 のコンビはどうなりますか。
修行を優先してつきあう相手から愛想をつかされ続けてきた 「健」 。技芸員に登録されて二年目に五人目の彼女と三ヶ月で別れたとき悟るわけです。芸の道を極めたいなら、修行に邁進すべきだ、と。
その 「健」 が恋? 恋の結末は?
あ、タイトルの 「仏果を得ず」 の表現は、第八章 「仮名手本忠臣蔵」 に出てきます。検索したら、「仏果」 とは、「修行によって得た成仏」 という意味の仏教用語だそうです。