「はじめに」 の1行目はこんな文章です。
「三十二歳にして、私はやっと一人暮らしを始めました」
ずっと一人暮らしをしてみたかった著者ですが、いろいろな事情から、結婚するまで実家を出たことがなかったそうです。
そして結婚、離婚。やっと念願の一人暮らしになった著者が、一人暮らしで思うつれづれを書いています。一人暮らしの素晴らしさ、時にはちょっと淋しさも。
「書き下ろし」 では、2007年の著者 (四十五歳になっている) が、この本を書いてからの12年を振り返り、1996年の自分は嵐の前にいた、と言っています。
どういうことかと言うと、1996年からどんどん何かに追いつめられ不安で不安でたまらなかったそうです。
そして、「こめかみの血管が破裂しそうなほど欲しかった文学賞を手にした」 わけですね。この文学賞とは 「直木賞」 のことでしょう。
そこに至る過程で酒量が増し、翌年、再婚するも心身の疲労が吹き出して文章が書けなくなってしまいます。いわゆる 「うつ病」 を発症するんですねぇ。
そのあたりの著者の生活は、「再婚生活」 に詳しく書かれていて、私は去年の秋ごろ読みましたが、再婚したのに別居生活。淋しいから電話で夫を呼びつけても一緒にいることでストレスを感じてしまう。読んでいるこちらが、「うつ病」 って家族すべてに大変な影響を与えるんだなぁ、と感じたほどです。
幸い、「再婚生活」 の終わりのほうでは、一緒に暮らせるようになり本も書けるようになった著者。
「書き下ろし」 でこんな気持ちを吐露しています。
「一九九六年の、まだ若く希望に満ちた、一人でいることが新鮮でたまらなかったあの頃には戻れないが、ひとつだけ変わっていないことを見つけた。
それは小説という、仕事であって仕事でないもの、経済的にも精神的にも生きる糧になっているものの存在だ。
私の掘りたい井戸はここ、磨きたい石はこれ、終の棲家がここであることは、たぶんずっと変わらないと今も確信している」
おまけ: このごろ 「ツグミ」 「セキレイ」 が来るようになりました。これ ↓は 「ツグミ」。「フジ」 の枝に止まっているところを撮りました。